リースバックは、自宅を売却してその場で賃貸契約に切り替え、住み続けながらまとまった資金を得る仕組みです。相続した実家の維持費に困っている、あるいは売却後も親に住み続けてほしい、そうした状況で検討される選択肢の一つです。
ただし「売却額が相場より低くなる」「賃料が割高になる」「契約期間後に退去を求められる」など、契約前に押さえておくべき点がいくつも存在します。消費者庁・国民生活センターも継続的に注意喚起を出しており、相談者の約8割が60歳以上という統計もあります(国民生活センター)。住み続ける目的で安易に選ぶと、自宅の所有権を失いながら退去リスクを抱える結果になり得る点は、契約前に必ず理解しておく必要があります。
リースバックの仕組みと通常売却との違い
リースバック(sale and leaseback)は、不動産を業者に売却すると同時に、業者との間で賃貸借契約を結び、売却後もその物件に住み続ける取引形態です。
通常の売却・買取と比較すると、以下のような違いがあります。
| 比較項目 | リースバック | 仲介売却 | 買取 |
|---|---|---|---|
| 売却後の居住 | 継続可(賃貸として) | 不可 | 不可 |
| 売却価格 | 市場価格の50〜80%程度 | 市場価格に近い | 市場価格の50〜80%程度 |
| 現金化までの期間 | 数日〜数週間 | 3〜6か月程度 | 数日〜数週間 |
| 毎月の賃料 | 発生する(割高傾向) | 不要 | 不要 |
| 将来の買い戻し | 業者によって可 | 不可 | 不可 |
売却価格の水準は買取と同程度ですが、買取と異なるのは「売却後に家賃を払って住み続ける」コストが加わる点です。その分、長期的なトータルコストは買取より高くなる傾向があります。
任意売却との違いも整理しておきます。任意売却(=住宅ローンの返済が困難になった場合に、債権者の同意を得て市場で売却する手続き)はローン残債の処理が目的であり、リースバックとは目的が異なります。ただし住宅ローンが残っている物件でリースバックを利用するには、金融機関の合意が必要になる場合があります。
リースバックが向く状況
- 相続税の納税資金を確保しながら、親または自分がその家に住み続ける必要がある
- 固定資産税・維持管理費の負担をなくしたい(所有者でなくなるため)
- 将来的に買い戻す可能性を残しておきたい
- 売却を急いでいるが、すぐに引っ越しできない事情がある
リースバックが向かない状況
- 売却価格をできるだけ市場価格に近づけたい
- 住み続ける必要がなく、賃料を払い続けるつもりがない
- 賃料の支払いが毎月の収支に与える影響が大きい
売却価格と賃料の相場、費用のレンジ
売却価格の目安
リースバックの売却価格は、一般的な市場価格の50〜80%程度(5〜8割)とされています。業者側が「賃貸運用リスク・将来の買い戻し対応・利回り確保」を価格に織り込むため、通常の仲介売却と比べて明確に安く買い取られる構造です。物件の立地や状況によっては 5割を下回る提示になるケースも報告されています。
ただし、この数値はあくまで目安であり、物件の立地・築年数・市場流動性によって幅があります。実際の売却価格は複数業者への査定で確認します。
出典国土交通省 不動産情報ライブラリreinfolib.mlit.go.jp賃料の目安
リースバック後の賃料は、売却価格の一定割合(月額賃料÷売却価格)で設定される場合が多く、年率換算で6〜10%程度になるケースがあります。たとえば売却価格が2,000万円の場合、月額賃料は10〜17万円程度になる計算です。
この賃料水準は周辺の賃貸相場より高くなることがあります。契約前に「周辺の賃貸相場と比較して妥当か」を確認することが重要です。
出典国土交通省 不動産情報ライブラリreinfolib.mlit.go.jp税金と費用
リースバックの売却時には、通常の不動産売却と同様に譲渡所得税(=不動産等の売却で生じる利益に対して課される税。所得税・住民税・復興特別所得税が含まれる)が課される場合があります。
相続した不動産を売却する場合、相続開始から3年10か月以内の売却であれば取得費加算の特例(=相続税の一部を売却時の取得費に加算できる特例。国税庁 No.3267)の適用対象になる場合があります。また、被相続人の居住用財産であれば空き家3,000万円特別控除の要件を満たすかどうかも確認します。
出典国税庁 タックスアンサー No.3306nta.go.jp 出典国税庁 タックスアンサー No.3267nta.go.jp仲介手数料は、リースバックでは業者が直接買い取るため原則不要です。ただし、契約内容によっては事務手数料や鑑定費用が発生する場合があります。
リースバックの主な注意点
注意点① 売却価格は市場価格より低い
前述のとおり、売却価格は市場価格の50〜80%程度になります。通常売却と比べた場合の差額が「住み続けるコスト」として考えると整理しやすいですが、その差額が大きい物件では、売却後に支払う賃料と合わせたトータルコストが想定を上回ることがあります。
事前に通常の売却相場を確認したうえで比較することを検討します。
PR不動産SHOPナカジツ(無料査定)詳細を見る →注意点② 賃料が周辺相場より高い場合がある
業者が設定する賃料は、周辺の賃貸相場に連動しているわけではなく、売却価格に対する利回りベースで決まる場合があります。結果として、近隣の類似物件の賃貸より割高になるケースがあります。
複数業者の賃料提示を比較し、周辺の賃料相場(国土交通省の不動産情報ライブラリ等で確認可能)と照らし合わせることが有効です。
注意点③ 契約期間と更新・退去条件を確認する
リースバック後の賃貸契約は、定期借家契約(=期間満了で自動終了し、更新がない賃貸借契約。借地借家法38条に基づく)で締結されるケースが多くあります。定期借家契約では、契約期間が終了した時点で退去を求められる可能性があります。
「住み続けられる期間」が何年なのか、更新の可否・条件、更新時の賃料改定の有無を契約前に必ず確認します。
出典国土交通省 定期借家契約についてmlit.go.jp注意点④ 買い戻し条件は業者によって大きく異なる
「将来買い戻せる」とされていても、買い戻し価格・期間・条件は業者ごとに異なります。売却価格より高い価格での買い戻しを設定している場合もあります。買い戻し条件は口頭の説明だけでなく、契約書に記載された内容を確認します。
注意点⑤ 住宅ローンが残っている場合は金融機関の同意が必要
ローン残債がある物件でリースバックを行う場合、抵当権の処理が必要になります。売却代金でローンを完済できない場合は、金融機関の同意なしに売却できません。この点で、任意売却の手続きと重なる部分があります。
注意点⑥ 固定資産税の住宅用地特例が外れる場合がある
売却後は所有者でなくなるため、固定資産税の支払い義務はなくなります。一方で、住宅用地特例(=住宅が建つ土地の固定資産税課税標準を最大1/6に減額する制度)は所有者に適用されるため、売却後の業者側への影響は業者が負担します。賃借人としての立場では固定資産税は関係しませんが、賃料設定の根拠の一つになっている場合があります。
注意点⑦ 業者の財務状況が契約継続に影響する
リースバック業者が物件を所有している間に経営悪化や倒産が起きた場合、物件が第三者に売却され、新たなオーナーから退去を求められるリスクがあります。業者の財務状況・設立年数・取引実績を事前に確認することが、リスク低減につながります。
注意点⑧ 自宅の業者売却はクーリング・オフの対象外
訪問販売・電話勧誘販売で契約したリースバックであっても、宅地建物取引業法上の売買契約はクーリング・オフの対象外となる場面が多く、契約後の撤回が難しくなります(例外的に業者の事務所以外での契約でクーリング・オフが認められるケースもありますが、要件は限定的)。「その場で決めさせる」勧誘には特に慎重に対応する必要があります。
注意点⑨ 高齢者の被害相談が増加している
国民生活センターに寄せられるリースバック関連の相談は、相談者の約8割が60歳以上という統計があります。判断能力が低下しつつある段階で「今の家に住み続けられる」「老後資金が確保できる」といった一面だけを強調して勧誘され、実態を十分理解しないまま契約に至るケースが問題視されています。契約前に家族・第三者(弁護士・消費生活センター等)に相談する時間を必ず確保します。
出典国民生活センター リースバックの相談状況kokusen.go.jp 出典消費者庁 リースバックに関する注意喚起caa.go.jp業者選びの基準と確認事項
宅建業免許の確認
リースバックを行う業者は、不動産の売買を仲介または直接取引するため、宅地建物取引業免許(=宅建業法に基づき、不動産売買・仲介を業として行うために必要な国土交通大臣または都道府県知事の免許)が必要です。国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で免許番号を確認できます。
出典国土交通省 建設業者・宅建業者等企業情報検索システムetsuran2.mlit.go.jp複数業者への査定依頼
売却価格・賃料・契約条件は業者によって異なります。1社だけの条件で判断せず、複数業者に査定を依頼して比較することが、条件の妥当性を判断する基準になります。
契約書の確認ポイント
- 定期借家か普通借家か
- 契約期間と更新条件
- 賃料改定の有無と幅
- 買い戻し価格と期間
- 退去時の原状回復の範囲
根拠のない断定を行う業者や、客観的調査に基づかない優位性訴求を行う業者には注意が必要です。特に「住み続けられる期間」「買い戻し条件」については、書面に記載された内容だけを判断材料とします。
リースバックの手続きの流れ
- 相場の把握 通常売却の査定を取り、リースバックの比較基準を把握する
- 複数業者への問い合わせ・査定依頼 売却価格・賃料・契約条件の提示を受ける
- 条件の比較・検討 売却価格、賃料、契約期間、買い戻し条件を業者間で比較する
- 売買契約と賃貸借契約の締結 内容を専門家(司法書士・不動産会社)と確認したうえで締結
- 決済・引き渡し 売却代金を受け取り、賃貸借契約がスタートする
- 賃料の支払い開始 以降は賃借人として月々の賃料を支払う
手続き全体は早ければ数週間で完了しますが、売却価格・賃料・税務の観点から、税理士や宅建士への相談を経てから契約に進むことが無用なトラブルを防ぐことにつながります。
よくある質問
リースバックとリバースモーゲージの違いは何ですか
リースバックは不動産を売却して賃借人になる取引です。リバースモーゲージは自宅を担保に金融機関から融資を受け、死亡時に担保物件を処分して返済する仕組みで、所有権は保持したままです。リバースモーゲージは金融機関の商品であり、リースバックとは法的性格が異なります。
相続した実家でリースバックは使えますか
相続した実家でも利用できます。ただし相続人が複数いる場合は全員の同意が必要です。また、売却時の譲渡所得税について空き家3,000万円特別控除や取得費加算の特例の適用可否を、税理士に確認することを検討します。
リースバック後に買い戻しはできますか
業者によって異なります。買い戻し条件(価格・期間・手続き)は契約書に明記されていることを確認します。口頭での説明だけでなく、書面上の条件を必ず確認します。
ローンが残っている家でリースバックは可能ですか
売却代金でローンを完済できれば可能です。残債が売却価格を上回る場合は金融機関の同意が必要になり、手続きが複雑になります。その場合は任意売却の手続きと組み合わせることも選択肢の一つです。
賃料は途中で値上がりすることがありますか
定期借家契約では契約期間中の賃料は原則固定されますが、更新時に改定される場合があります。契約書に賃料改定の条件と幅が記載されているかを確認します。
まとめ
リースバックは「売却後も住み続けられる」という特性から、相続した不動産の維持費・固定資産税の負担を解消しながら資金を確保したい場合に検討される選択肢です。一方で、売却価格は市場価格より低く、賃料が周辺相場より高くなる傾向があり、定期借家契約による退去リスクも存在します。
判断の基準は「通常売却の相場と比べてどれだけの差があるか」「賃料を含めたトータルコストを許容できるか」「住み続ける期間がどれくらい必要か」の3点です。
まず通常売却の相場を把握したうえで、リースバックの条件と比較することが判断の出発点になります。
判断に迷ったら相談できる窓口
契約前に不安がある、勧誘に押されている、契約書の内容に疑問があるといった場合、以下の窓口で相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや!): 最寄りの消費生活センターにつながる全国共通番号
- 国民生活センター: リースバックを含む消費者トラブルの情報提供と相談窓口
- 法テラス(日本司法支援センター): 収入等の要件を満たせば無料で法律相談が受けられる
- 弁護士・司法書士: 契約書のリーガルチェック、勧誘トラブルの相談
契約前に「一晩考える時間をもらう」「家族と相談してから返事する」と業者に伝え、その時間を使って上記窓口に相談する進め方が、後日のトラブルを防ぐ具体的な手段になります。
参考資料
出典国土交通省 定期借家契約についてmlit.go.jp 出典国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例nta.go.jp 出典国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例nta.go.jp 出典国土交通省 不動産情報ライブラリreinfolib.mlit.go.jp 出典国土交通省 建設業者・宅建業者等企業情報検索システムetsuran2.mlit.go.jp 出典消費者庁 景品表示法caa.go.jp