取得費加算の特例|相続不動産の売却で税を減らす条件

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取得費加算とは・譲渡所得税の基本との違い

相続した不動産を売ると、売却益に対して譲渡所得税がかかります。取得費加算は、その計算のなかで「取得費」を増やして売却益を圧縮する特例です。

譲渡所得 (=不動産の売却で生じる利益。所得税・住民税・復興特別所得税の課税対象) は、次の式で決まります。

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)

取得費が大きいほど、譲渡所得は小さくなり、税額も下がります。取得費加算 (=相続税の一部を売却時の取得費に上乗せできる特例。国税庁 No.3267) は、この取得費に「支払った相続税のうち一定額」を足せる仕組みです。

譲渡所得税そのものの計算や税率については、別記事で詳しく整理しています。譲渡所得税の計算と税率の基本をあわせて読むと、取得費加算の効果がつかみやすくなります。

使い分けの目安

取得費加算が効くのは「相続税を払っていて、かつ売却益が出る」ケースです。相続税がゼロだった人には加算する元がありません。売却益が出ない(むしろ損失)ケースでも、加算しても税額は変わりません。

つまりこの特例は、相続税を納め、値上がりした不動産を売る人ほど効果が大きくなります。

相場と費用・取得費加算でどれくらい減るか

取得費加算で上乗せできる額は、売った不動産に対応する相続税額です。

加算できる金額の考え方

加算額は、次の式で計算します。

加算額 = 納付した相続税額 × (売った不動産の相続税評価額 ÷ その人が相続した財産全体の相続税評価額)

たとえば相続税を600万円納め、売却する土地建物がその人の相続財産全体の6割を占めるなら、おおよそ360万円を取得費に加算できる計算になります。実際の数字は財産構成で変わるため、相続税申告書の内訳をもとに試算します。

この加算額に譲渡所得税率を掛けた分だけ、税負担が軽くなります。長期譲渡(所有期間5年超)の税率は所得税・住民税・復興特別所得税を合わせておおむね20.315%です。

出典国税庁 タックスアンサー No.3267nta.go.jp

譲渡費用に含まれるもの

譲渡費用には、仲介手数料、印紙税、測量費、建物の取壊し費用などが入ります。取得費加算と譲渡費用の両方を差し引くことで、譲渡所得はさらに小さくなります。

相続税がかかったかどうかの前提

そもそも相続税は、遺産総額が基礎控除を超えた場合にかかります。基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」です。配偶者と子ども2人が相続人なら、基礎控除は3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円になります。

遺産総額がこれを下回れば相続税はかからず、取得費加算も使えません。

出典国税庁 タックスアンサー No.4152nta.go.jp

期間の目安

売却から確定申告までの流れは、通常2〜4か月です。売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告し、取得費加算を適用します。相続税申告書の写しなど、必要書類の準備に時間がかかることもあります。

メリット・デメリット

取得費加算と空き家3,000万円控除は、どちらも相続不動産の売却で使える制度ですが、性格が異なります。

取得費加算のメリット

相続税を納めた人なら、居住用に限らず貸地・貸家・更地でも使えます。売却益が大きく、相続税額も大きいほど、減税効果が大きくなります。空き家控除のような建物の状態要件がない点も使いやすさにつながります。

取得費加算のデメリット

相続税を払っていない人には効果がありません。売却益が出ないケースでも意味がありません。適用には相続開始の翌日から3年10か月以内という期限があり、これを過ぎると使えなくなります。

空き家3,000万円控除のメリット

被相続人が一人で住んでいた家を売る場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。売却益が3,000万円以内なら、譲渡所得税がゼロになる可能性があります。相続税を払っていない人でも使えます。

空き家3,000万円控除のデメリット

昭和56年5月31日以前建築などの要件があり、耐震改修または取壊しが必要です。相続人が3人以上の場合、2024年の譲渡から控除額が1人あたり2,000万円に減額されます。適用期限は2027年12月31日までです。

出典国税庁 タックスアンサー No.3306nta.go.jp

空き家控除の要件や相続人3人以上の減額については、空き家3,000万円控除と相続人3人以上の注意点で詳しく整理しています。

注意点と併用可否・専門家の選び方

取得費加算と空き家3,000万円控除は併用できません。同じ不動産の売却で両方を同時に使うことはできず、どちらか有利なほうを選びます。

どちらを選ぶかの判断軸

判断は試算で決まります。相続税を多く納めていて売却益が大きいなら、取得費加算のほうが効くことがあります。相続税が少なく、売却益が3,000万円以内に収まるなら、空き家控除のほうが有利になりやすい傾向です。

数字の大小は個別の相続財産構成と売却価格で逆転するため、両方の減税額を並べて比べます。

期限のずれに注意

取得費加算は相続開始の翌日から3年10か月以内、空き家控除は2027年12月31日までと、期限の基準が異なります。相続の時期によっては片方だけが間に合うこともあります。

なお、相続登記そのものにも期限があります。不動産の相続登記は、相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が義務化され、施行前の相続分も2027年3月31日までの申請が必要です。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。

出典政府広報オンラインgov-online.go.jp

業者・専門家選びのポイント

税額の最終判断は税理士に確認します。売却価格の見込みは、複数の不動産会社の査定を比べて把握します。1社だけの査定では、その価格が妥当か判断しづらいためです。

業者選びでは、宅地建物取引業の免許番号を確認し、相続不動産の取扱実績を見ます。根拠のない断定を行う業者や、決断を急がせる訴求を強調する業者は避けます。査定価格の根拠を説明できるかどうかが、比較の分かれ目です。

売却価格の相場観をつかむには、複数社の査定を一度に取れる一括査定が起点になります。

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進め方・売却から申告までの手順

取得費加算を使う売却は、次の順序で進みます。

  1. 相続税申告書の写しを用意する — 加算額の計算に、納付した相続税額と財産の内訳が必要です。
  2. 売却価格の見込みを立てる — 複数の不動産会社に査定を依頼し、相場を把握します。
  3. 取得費加算と空き家控除を試算して比べる — 税理士とどちらが有利か確認します。
  4. 売買契約・引き渡し — 期限(相続開始の翌日から3年10か月以内)に間に合うよう進めます。
  5. 翌年の確定申告で特例を適用する — 相続財産の取得費加算額の計算明細書などを添付します。

実家売却全体の流れは、実家売却の進め方と流れで段階ごとに解説しています。

よくある失敗

期限切れが最も多い失敗です。取得費加算の3年10か月を過ぎると、相続税を払っていても加算できなくなります。相続手続きや遺産分割で時間を使い、売却が遅れるケースが目立ちます。

併用できると思い込む失敗もあります。取得費加算と空き家3,000万円控除は選択制で、両方は使えません。試算せずに片方だけで申告し、有利なほうを逃すこともあります。

相続税ゼロなのに加算を期待するケースも見られます。基礎控除の範囲内で相続税がかからなかった場合、取得費加算には元になる税額がありません。

査定を1社だけで決めると、売却価格が妥当か判断できません。複数社を比べることで、価格の根拠を確認できます。

よくある質問

取得費加算と空き家3,000万円控除は両方使えますか?

同じ不動産の売却では併用できません。選択制のため、試算してどちらか有利なほうを選びます。相続税を多く納め売却益が大きいなら取得費加算、売却益が3,000万円以内なら空き家控除が有利になりやすい傾向です。

取得費加算の期限はいつまでですか?

相続開始があったことを知った日の翌日から3年10か月以内に売却する必要があります。この期限を過ぎると、相続税を払っていても加算できません。

相続税を払っていなくても取得費加算は使えますか?

使えません。取得費加算は納付した相続税額を取得費に上乗せする仕組みのため、相続税がゼロだった場合は加算する元がありません。

取得費加算はどんな不動産に使えますか?

相続税を払った人が相続で取得した不動産であれば、居住用に限らず貸地・貸家・更地などにも使えます。空き家控除と違い建物の状態要件はありません。

確定申告では何を添付しますか?

相続財産の取得費加算額の計算明細書のほか、相続税申告書の写しなどが必要です。加算額の算定に相続税額と財産の内訳を使うため、書類の準備は早めに進めます。

まとめ

取得費加算は、相続税を払い売却益が出る人ほど効果が大きい特例です。空き家3,000万円控除とは併用できないため、両方を試算して有利なほうを選びます。期限は相続開始の翌日から3年10か月以内です。まずは相続税申告書を手元に用意し、売却価格の見込みを立てることが最初の一歩になります。

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出典

  • 国税庁 タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.4152 相続税の計算 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
  • 政府広報オンライン 相続登記の申請義務化 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202302/2.html
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