連棟住宅・長屋を売ろうとしたとき、「隣が同意しないと売れない」「業者に断られた」という経験をした方は少なくありません。その感覚は正しい部分もあり、誤解の部分もあります。
連棟・長屋とは何か、なぜ売却が難しいのか
連棟住宅と長屋の違い
「連棟住宅」と「長屋」は、建物が横に繋がっているという点では同じですが、法律上の扱いが異なります。
長屋(テラスハウス型)は、各住戸が土地と建物の両方を単独で所有し、それぞれに独立した玄関を持つ形式です。各戸が独立した不動産として登記されているのが一般的です。
連棟住宅は、一棟の建物を複数の所有者が区分所有している形式で、区分所有法(=マンションと同じ法律)が適用される場合があります。また、一棟として登記されたまま複数人が持分で所有しているケースもあります。
どちらの形式か、登記事項証明書で確認することが出発点です。
売却を難しくする3つの構造的な理由
理由①:建物が物理的に繋がっている
壁・基礎・屋根が隣家と一体化しているため、自分の部分だけを切り離して解体・建替えることが難しい状況です。独立した戸建てと同じ感覚で「取り壊して更地にする」という選択肢が取りにくく、買い手の裾野が狭まります。
理由②:再建築不可になっているケースが多い
再建築不可(=接道要件等を満たさず、既存建物を取り壊すと新たに建物を建てられない土地)になっている連棟・長屋は全国に多数存在します。
建物を取り壊して単独で建替えようとすると、接道義務(=建築基準法上、敷地は幅員4m以上の道路に2m以上接する必要があるルール)を満たせない場合があります。特に昭和40年代以前に建てられた長屋密集地では、前面道路が4m未満の「狭隘道路」に面しているケースが目立ちます。
再建築不可物件については、
で詳しく整理しています。
理由③:隣家との権利関係が複雑
区分所有の場合、建物の共用部分(外壁・屋根・基礎など)の変更には区分所有者の一定数の同意が必要です。長屋形式でも、切り離し工事をするには隣家の建物・地盤への影響が生じるため、事実上の交渉が避けられません。
「隣が何も言わなければ何でもできる」という理解は、後のトラブルの原因になります。
接道と既存不適格の確認が先決
売却活動の前に、対象物件が以下のどの状態かを明確にする必要があります。
- 接道が基準を満たしている:仲介での通常売却が視野に入る
- 接道が基準を満たしていないが、43条ただし書き(=接道義務を満たさない土地でも、周囲の空地や通路など個別要件を満たせば特定行政庁の許可で建築が認められる制度)の許可が見込める:再建築の可能性が残る
- 接道が基準を満たしておらず、43条許可も困難:訳あり物件としての売却ルートが中心になる
既存不適格(=建築当時は適法だったが、その後の法改正等で現行基準を満たさなくなった建物)も買い手の評価に影響します。
も合わせて確認しておくと、査定時の交渉材料になります。
売却できる3つのルートと使い分け
連棟・長屋の売却には、大きく3つのルートがあります。状況に応じて組み合わせることもあります。
ルート①:隣家と合意して全棟一括売却
最も高い売却価格が期待できるルートです。隣家所有者と協力し、一棟まとめて買い手を探します。
メリット
- 買い手にとって「まとまった土地」として評価されるため、単棟売却より価格が上がりやすい
- 接道・再建築の問題を土地全体で解消できる場合がある
- 隣家との権利関係を整理したうえで売れるため、契約後のトラブルが少ない
デメリット
- 隣家所有者の同意と協力が前提条件
- 売却価格・費用負担の配分で交渉が必要
- 隣家の事情(相続未了・連絡不通・反対意見)で頓挫するリスクがある
向く状況 隣家所有者と顔見知りで、売却に前向きな意向がある場合。または隣家も空き家化しており、双方に処分したい動機がある場合。
ルート②:単棟のみを仲介で売却
自分の棟だけを不動産仲介業者を通じて市場に出すルートです。
長屋形式で各戸が独立登記されている場合、法律上は単独で売買できます。ただし、接道要件や切り離し工事の問題が買い手に対して明確に説明される必要があります。
仲介での売却が成立しやすい条件:
- 各戸の独立登記がある
- 前面道路が4m以上で接道義務を満たしている
- 建物の状態が比較的良好
接道や構造の問題が解決されていない状態で仲介に出しても、買い手がローン審査を通過できず、契約に至らないケースが多く出てきます。
ルート③:訳あり物件専門の買取業者に売却
接道の問題・隣家の同意が得られない・再建築不可、といった条件が重なる場合、訳あり物件に特化した買取業者への売却が現実的な出口になります。
メリット
- 隣家の同意なしでも、自分の棟・持分のみ売却できる
- 仲介と違い、業者が買い主になるため売却期間が短い(数週間〜2か月程度が目安)
- 建物の状態を問わず買い取るケースが多い
- 測量・インスペクション不要で進む場合がある
デメリット
- 仲介相場の5〜7割程度の価格になることが多い
- 業者によって提示価格のばらつきが大きい
- 買取後に隣家とのトラブルを引き継ぐリスクが業者側に移るため、価格に反映される
向く状況 時間的な制約がある場合、隣家との交渉が行き詰まっている場合、再建築不可で仲介での買い手が見つからない場合。
隣家との調整:交渉の進め方と落とし穴
交渉前に確認すること
隣家との話し合いを始める前に、以下の情報を手元に揃えておくと交渉が具体的になります。
- 登記事項証明書(建物・土地の両方)
- 建築確認済証・検査済証(手元にあれば)
- 固定資産税評価額の通知書
- 前面道路の種別(役所の建築指導課で確認)
隣家所有者が「相続したが使っていない」「名義が亡くなった親のまま」というケースもあります。その場合、相続登記(=不動産の名義を相続人に変更する登記。2024年4月から義務化)が未了の状態で話し合いが始まることになります。
出典法務局 相続登記の義務化moj.go.jp相続登記が未了でも売却の交渉は進められますが、最終的な契約には名義が整っている必要があります。先に専門家(司法書士)に相談するよう隣家所有者に伝えることが、交渉をスムーズにする場合があります。
一括売却の合意形成で押さえるポイント
一括売却に進む場合、以下の点について事前に合意を作っておくと、業者への依頼がスムーズになります。
売却価格の配分方法 – 持分割合に応じて按分する – 専有面積の比率で按分する – 双方の合意で任意の割合にする
配分方法に正解はなく、双方が納得できる根拠を決めておくことが大切です。一般的には専有面積または持分割合が基準になります。
費用負担の取り決め 仲介手数料・測量費・建物解体費(更地売却の場合)などの費用を誰がどの割合で負担するかを明確にしておきます。口約束にせず、簡易な書面で残すことがトラブル回避につながります。
売却時期の調整 双方の引き渡し時期のずれがあると契約が複雑になります。同一の引き渡し日に向けて日程を揃える方向で交渉を進めます。
隣家が同意しない場合の現実的な対処
隣家が売却に反対する、または連絡が取れないケースでは、一括売却のルートは事実上閉じます。
この場合の現実的な対処として:
自分の棟・持分のみを訳あり業者に売却する 前述のルート③です。買取業者が取得後に改めて隣家と交渉するケースもあります。
弁護士に相談して共有物分割請求を検討する 一棟が共有名義になっている場合、共有物分割請求(=民法258条に基づき、協議が整わない場合に裁判所へ共有関係の解消を求める手続き)を家庭裁判所に申し立てることができます。ただし、時間・費用・関係悪化のリスクがあり、最終手段として位置づけられます。
現状維持のまま賃貸に出す 接道・隣家の問題が解決しないままでも、現状の建物で賃貸収入を得ながら売却の機会を待つという選択肢もあります。修繕費と家賃収入のバランスを見て判断します。
業者・専門家の選び方
仲介業者を選ぶ場合
連棟・長屋の仲介実績がある業者かどうかが最初の判断基準です。通常の戸建て売却に慣れた業者では、接道の問題や切り離し工事の説明が不十分になることがあります。
確認すべき点:
- 宅地建物取引業の免許番号(国土交通大臣または都道府県知事免許)と更新回数
- 連棟・長屋・再建築不可物件の取引実績
- 重要事項説明の内容(接道・再建築可否・切り離し条件)の具体性
業者に「この物件の接道状況についてどう説明するか」を質問してみると、実務知識の深さが見えてきます。
訳あり買取業者を選ぶ場合
買取業者への売却では、複数社から査定を取ることが価格の妥当性を判断する唯一の方法です。1社のみで決めると、提示価格が市場の実態から大きく乖離していても気づきにくくなります。
確認すべき点:
- 宅地建物取引業免許の確認(国土交通省の業者検索システムで照会可能)
- 連棟・長屋・再建築不可の買取実績の件数と地域
- 査定根拠の説明(なぜその価格か、どの要素がどう影響しているか)
- 契約内容(瑕疵担保責任の免責範囲・引き渡し条件)
査定価格と契約条件はセットで比較します。高い査定額でも、後から費用を差し引く条件が付いている場合があるため、最終的な手取り額を複数社で揃えて比較します。
根拠のない断定を行う業者(「この物件でも高額買取できる」等の保証的な言い回し)や、決断を急がせる訴求を強調する業者は、実績と説明内容を慎重に確認します。
専門家(弁護士・司法書士・建築士)の活用
以下のケースでは、不動産業者だけでなく専門家の関与が結果を左右します。
| ケース | 相談先 |
|---|---|
| 隣家との交渉が行き詰まった・共有分割を検討 | 弁護士 |
| 相続登記が未了・相続人が複数で合意が必要 | 司法書士 |
| 43条ただし書き許可の可能性を確認したい | 特定行政庁(建築指導課)・建築士 |
| 切り離し工事の可否・構造への影響 | 一級建築士・構造設計者 |
費用は発生しますが、専門家の判断を入れることで売却可能なルートが見えてくるケースがあります。
よくある失敗
失敗①:切り離し工事の同意を取らずに売買契約を締結した
自分の棟を売るために切り離し工事が必要な場合、工事の実施には隣家の同意が不可欠です。売買契約後に隣家が反対し、引き渡しができなくなったケースが実務では報告されています。切り離し工事の合意書は、売買契約の前に取得するか、契約の停止条件として組み込みます。
失敗②:接道状況を確認せずに仲介で売り出し、長期間売れ残った
「道路に面している」という感覚だけで仲介に出し、買い手がローン審査で再建築不可を指摘されて白紙になるケースがあります。売り出し前に役所の建築指導課で接道状況を確認することが、時間の無駄を省く最短経路です。
失敗③:1社だけの査定で買取価格を決めた
買取は業者が相場を設定するため、1社だけでは価格の妥当性を検証できません。連棟・長屋の買取では業者間の価格差が大きくなりやすく、複数査定が特に重要です。
失敗④:「売却後は関係ない」と思い、隣家への説明を省いた
自分の棟が売却された後、新しい所有者と隣家の間でトラブルが発生したケースがあります。境界・外壁の管理責任・設備の共有状況などを買い手と隣家の双方に事前に説明しておくと、売却後のリスクが下がります。
失敗⑤:相続登記が未了のまま売却しようとした
名義が故人のままでは売買契約の締結ができません。相続登記を先に進める必要があり、相続人が複数いる場合は遺産分割協議も必要になります。売却のタイムラインに相続手続きの期間を含めて計画を立てます。
よくある質問
連棟・長屋は隣家の同意なしに売れますか?
長屋形式で各戸が独立登記されている場合、自分の棟を単独で売却することは法律上可能です。ただし、切り離し工事が必要な場合は隣家の同意が実務上不可欠です。区分所有形式の場合、共用部分の変更には区分所有者の一定数の同意が必要になります。売却前に登記の形式と接道状況を確認することが先決です。
再建築不可の連棟・長屋でも売れますか?
売却できます。ただし、通常の仲介市場では買い手が限られ、ローン審査が通りにくいため、成約まで時間がかかる場合があります。訳あり物件に特化した買取業者への売却が現実的な選択肢になります。また、43条ただし書き許可が認められれば再建築の可能性が生まれ、評価が上がるケースがあります。役所の建築指導課への照会が出発点です。
隣家が相続未了で名義が古いままです。どうすれば進められますか?
隣家所有者が亡くなっており名義が残っている場合、その相続人を探して交渉する必要があります。法定相続情報一覧図(法務局で取得)や戸籍の調査で相続人を特定できます。相続登記の義務化(2024年4月施行)により、放置すると隣家の相続人も過料の対象になり得るため、その点を伝えながら話し合いに応じてもらうアプローチが有効な場合があります。
連棟の切り離し工事にかかる費用はどのくらいですか?
切り離し工事の費用は建物の構造・規模・隣家との壁の仕様によって大きく異なります。木造の場合、片側の切り離しと外壁補修で50万〜200万円程度になるケースが多いですが、構造調査(建築士によるインスペクション)を先に行わないと正確な見積もりは出せません。売却前に建築士に相談して概算を把握しておくことが計画の精度を上げます。
売却で生じた利益への税金はどうなりますか?
連棟・長屋の売却で生じた利益は譲渡所得(=不動産等の売却で生じる利益。所得税・住民税・復興特別所得税の課税対象)として課税されます。相続で取得した場合は、被相続人の取得費を引き継ぎます。空き家として一定の要件を満たす場合、空き家の3,000万円特別控除(適用期限は2027年12月31日まで)の対象になる可能性がありますが、要件が複数あるため税理士への確認が必要です。
まとめ
- 連棟・長屋の売却が難しい理由は、物理的な一体構造・再建築不可・隣家との権利関係の3点に集約される
- 売却ルートは「全棟一括」「単棟仲介」「訳あり買取」の3つ。隣家との関係と接道状況で使い分ける
- 切り離し工事の合意・接道確認・相続登記の整理は、売却活動の前に片付けておくべき準備
- 業者は複数査定が前提。免許確認と査定根拠の説明を必ず確認する
- 43条ただし書き許可の可能性がある場合は、役所照会で再建築の芽を確認してから売却方針を決める
連棟・長屋の売却は、単純な戸建て売却より関係者が多く、手順の組み立てが結果を左右します。状況の整理から始めて、ルートを一つに絞りすぎないことが、現実的な出口を見つける上での出発点です。
出典
- 法務局「相続登記の義務化」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
- 政府広報オンライン「相続登記が義務になりました」https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202302/2.html
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- e-Gov 法令検索 建築基準法 第43条 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000201
- e-Gov 法令検索 民法 第258条 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089