「業者に問い合わせたら『片付けてから来てください』と言われた」「荷物が山積みで、どこから手をつければいいかわからない」——残置物が残ったまま空き家の売却を進めようとすると、最初の一歩でつまずくことが多い。
残置物が空き家売却の障害になる理由
残置物(=前の居住者や所有者が置いていった家具・家電・衣類・雑貨などの動産)が残っている空き家は、通常の仲介売却ではほぼ売り出せない。その理由は大きく3つある。
買主が内覧を敬遠する
荷物が残った状態では、部屋の広さや状態を正確に確認できない。買主候補は「片付いてから見せてほしい」と判断し、内覧申し込みが入りにくくなる。仲介では内覧数が成約の前提条件になるため、残置物はそのまま販売期間の長期化につながる。
所有権の問題が生じる
残置物は、売主が自身の所有物であることを証明し、引き渡し前に撤去する義務がある。売買契約書に「残置物は売主の責任で撤去する」と明記されるのが通例で、引き渡し後に残置物が残っていると契約不適合(旧瑕疵担保)の問題に発展することがある。
遺品の場合は感情的・権利的な整理が必要
親の遺品が残っている場合、法的には相続財産の一部として扱われる可能性があり、共有相続人全員の同意なく処分すると後のトラブルの原因になることがある。売却前に相続人間で合意を取り、誰が何を整理するかを明確にしておくことが現実的な対処になる。
残置物処分の費用と期間の実際
費用のレンジ
遺品整理・残置物撤去の費用は、部屋数・荷物の量・エリア・業者によって大きく異なる。実務上の目安は以下の通り。
| 規模 | 費用の目安 | 所要日数の目安 |
|---|---|---|
| 1K・1R 程度(荷物少なめ) | 3〜8万円 | 半日〜1日 |
| 2LDK・3LDK(通常量) | 15〜35万円 | 1〜2日 |
| 4LDK 以上(荷物が多い) | 40〜80万円 | 2〜4日 |
| ゴミ屋敷レベル(異臭・特殊清掃含む) | 80〜200万円以上 | 複数日〜数週間 |
これらはあくまでも参考レンジであり、実際の費用は現地見積もりで確認する必要がある。
異臭や特殊清掃を伴うゴミ屋敷状態の場合、費用と手順が通常の残置物処分と異なります。ゴミ屋敷の実家を片付けて売る方法と費用・6ステップで個別にまとめています。
出典一般社団法人 遺品整理士認定協会ihinseiri.or.jp費用を圧縮できるケース
リサイクル・買取で相殺する
家電や家具に状態のいいものが含まれている場合、遺品整理業者が買取査定を兼ねることがある。買取額を処分費用から差し引く「買取り相殺」を条件交渉できる業者を選ぶと、実質負担を減らせる場合がある。
自分で搬出できる範囲を先行する
遠方の場合でも、1〜2回の帰省で車に積んで持ち帰れるものを先行して運び出しておくと、業者に依頼する量が減り費用が下がる。ただし、貴重品・重要書類・相続財産に当たる可能性があるものは業者委託前に必ず仕分ける。
解体前提なら処分を省略できる
土地として売却する場合、建物の解体と残置物の処分をまとめて解体業者に依頼できる。建物を残したまま売るよりも処分費用が割高になる場合もあるが、残置物処分の手間を切り離せる。解体費用の相場については別途確認が必要で、相場は構造・延床面積・エリアにより変動する。
残置物ありのまま売却できるルート
ルート①:訳あり物件専門の買取業者
残置物ありのまま売却できる最も現実的な選択肢が、訳あり物件専門の買取業者への直接売却。買取業者が買い取った後に自社で整理・リフォームを行うビジネスモデルのため、売主側は残置物を撤去せずに売却できる。
条件と注意点
- 買取価格は市場価格から一定割合(実務では2〜4割程度が多い)低くなる傾向がある
- 「残置物込みの買取」を明示している業者と、「別途費用で引き受ける」業者の2種類があるため、契約前に条件を書面で確認する
- 1社だけに話を通すと適正価格の判断基準がなくなるため、複数社への同時査定が重要
空き家買取の仕組みと業者の選び方については、別ページで詳しく整理している。
ルート②:仲介売却(残置物処分を先行)
残置物を先に片付けたうえで、一般の仲介業者を通じて売り出すルート。市場価格に近い価格での成約が期待できるが、処分費用と販売期間(数か月〜1年以上)の両方を見込む必要がある。
向いているケース
- 建物の状態が比較的よく、市場での売れ行きが期待できる
- 処分費用を売却益でカバーできる見通しがある
- 時間的な余裕がある
向いていないケース
- 再建築不可・事故物件など他の訳あり属性が重なっている
- 売却を急いでいる
- 処分費用の立て替え資金がない
ルート③:隣地・周辺への打診(個人間売買)
空き家が隣接地の所有者にとって価値があるケース(敷地の拡張・日当たりの改善・駐車場用途等)では、個人間での売買交渉が成立することがある。仲介手数料がかからず、残置物の条件を柔軟に交渉できる点がメリット。
ただし、売買契約の作成・重要事項説明・登記手続きは宅建業者に委託しないと法的なリスクが生じるため、「紹介から契約まで宅建業者を介する」形が現実的。
ルート④:相続土地国庫帰属制度(売却ではなく国への引き渡し)
相続土地国庫帰属制度(=一定要件を満たせば相続した土地を国に引き渡せる制度。2023年4月施行)は、買い手が見つからない土地の出口のひとつ。ただし、建物が残っている場合・残置物がある場合は申請要件を満たさない可能性が高く、「売却」ではなく「手放す」選択肢として位置づける。
出典法務省 相続土地国庫帰属制度moj.go.jpルート⑤:空き家バンク登録(自治体経由の売却支援)
自治体が運営する空き家バンクに登録し、移住希望者や地域活性化を目的とした買い手と接続するルート。残置物の有無については、各自治体・物件ごとの交渉次第で条件が変わる。市場価格より低い成約になることが多いが、手数料が安い・買い手の動機が明確という特性がある。
空き家バンクの利用条件は自治体によって異なるため、物件所在地の市区町村窓口に確認するのが先決。
業者選びと契約前チェック
免許の確認
不動産の売買・仲介を業として行うには宅地建物取引業免許(宅建業免許)が必要。国土交通省または各都道府県のサイトで業者名・免許番号を照合できる。
出典国土交通省 建設業者・宅建業者等企業情報検索システムetsuran2.mlit.go.jp免許番号の「()」内の数字は更新回数を示し、数字が大きいほど長く営業している業者。ただし更新回数だけで信頼性を判断するのは不十分で、残置物・訳あり物件の取り扱い実績を別途確認する。
複数査定の重要性
1社のみの査定では、提示された価格が市場水準に対して低いか高いかを判断する基準がない。特に残置物込み・訳あり物件の買取査定は業者によって価格差が大きく出ることがある。最低でも3社以上の査定を取ったうえで比較することで、適正な売却条件を見極めやすくなる。
複数の買取業者に一度で査定依頼できるサービスを活用する方法もある。
PR不動産SHOPナカジツ(無料査定)詳細を見る →契約前に確認すべき項目
以下は書面で確認することが望ましい事項。口頭の約束は後のトラブルの原因になる。
- 残置物の処分は売主・買取業者のどちらの負担か、費用はいくらか
- 引き渡し期日はいつか
- 価格・条件の有効期限はあるか
- 契約不適合責任の免除条項はあるか(買取の場合は免除特約が多い)
- キャンセルした場合の条件
根拠のない断定を行う業者(「この値段で売れる」等の確約を口頭でのみ行う・書面を出さないなど)や、決断を急がせる営業手法を使う業者には慎重に接する必要がある。
よくある失敗
失敗①:1社に任せきりにして比較しなかった
「知り合いの業者に頼んだ」「最初に来た業者にそのまま委託した」という経緯で、後から他社の査定を取ったところ大きな価格差があることがわかった、というケースは実例として多い。特に残置物ありの場合、処分費用の見積もりと買取価格のセットで複数社を比較することが重要。
失敗②:処分費用を現金で先払いしたのに売却価格が低かった
遺品整理業者に数十万円を先払いして荷物を片付けたあと、改めて仲介業者に相談したところ「この立地では売れない」と言われ、結局安価な買取に切り替えるしかなかった——という展開がある。処分費用を先に支払う前に、「処分後の売却がどの価格帯で可能か」を不動産業者に確認してから動く順番が実務上は合理的。
失敗③:残置物の一部に相続財産が含まれていた
処分を急ぐあまり、故人の預金通帳・権利書・貴重品を遺品整理業者の荷物とまとめて処分してしまったケース。特に権利書(登記済証・登記識別情報)は紛失すると登記手続きに追加コストがかかる。処分前に必ず重要書類の仕分けを行う。
失敗④:共有相続人の同意なく処分を進めた
共有名義の不動産で、特定の相続人が他の相続人に無断で残置物の撤去や売買の交渉を進めたことで、他の相続人から異議が出て売却が止まったケース。共有名義の不動産の売却には共有者全員の同意が必要(民法251条)。残置物の処分についても、相続人全員で合意を取ってから進める。
出典e-Gov 民法(第251条)elaws.e-gov.go.jp空き家の管理方法や共有名義の扱いに迷う場合は、空き家管理の基本と費用のページも参考にできる。
よくある質問
残置物ありのまま売却すると、価格はどのくらい下がりますか?
残置物の量・処分コスト・物件の立地や状態によって異なります。買取業者が処分費用を負担する場合、処分コスト相当額が査定価格から差し引かれる形になるのが実務上の一般的な扱いです。処分費用の目安は本文の費用表を参照してください。複数社の査定を比較することで、どの業者が最も条件のいい提示をしているかを判断できます。
業者に頼まず自分で残置物を処分して売ることはできますか?
可能です。自分または家族で運び出し、粗大ごみの収集や不用品回収業者を組み合わせて処分したうえで、通常の仲介売却に切り替えるケースもあります。ただし、処分に要する時間・費用・体力と、売却価格の改善見込みを天秤にかけて判断することが現実的です。荷物の量が多い場合は、専業の遺品整理業者に見積もりを取ったうえで比較するのが手順として有効です。
遺品整理業者と不動産業者、どちらに先に連絡すればいいですか?
先に不動産業者(または買取業者)に相談して、物件の売却方針を固めてから遺品整理業者を動かす順番が失敗の少ない進め方です。先に整理費用を使ってしまってから「この立地では売れない」「買取しかない」とわかると、費用が無駄になるリスクがあります。ただし、残置物ありのまま買取できる業者に依頼する場合は、遺品整理業者を手配する必要がない場合もあります。
相続登記がまだ終わっていない空き家でも売却できますか?
相続登記(=不動産の名義を相続人に変更する登記。2024年4月から義務化)が完了していない状態でも売買契約の交渉は進められますが、実際の所有権移転登記は相続登記の完了後になります。なお、相続登記は相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が義務であり、2024年4月1日施行前に相続した不動産については2027年3月31日までの申請が求められます。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となります。売却を進める場合は司法書士に相続登記と売買の並行依頼をするのが実務上の標準的な流れです。
残置物ありの空き家が再建築不可物件でも売却できますか?
再建築不可(=接道要件等を満たさず、既存建物を取り壊すと新たに建物を建てられない土地)かつ残置物ありの場合、一般的な仲介での売却は難しくなります。ただし、訳あり物件専門の買取業者や、隣地所有者への打診など、通常とは異なる出口があります。査定を依頼する際は「再建築不可・残置物あり」の両方を明示して、その条件で対応できる業者を探す手順が現実的です。
まとめ
残置物ありの空き家が売れない本質的な理由は、「状態の不確かさ」と「処分コストの負担問題」にある。この2点を整理できれば、出口は複数ある。
- 急いでいる・処分費用を先出しできない場合は、残置物込み買取を複数社に査定依頼する
- 時間と費用の余裕がある場合は、先に整理して仲介売却の選択肢も残す
- 再建築不可や共有名義など訳あり属性が重なる場合は、専門業者への相談を先行させる
どのルートを選ぶにしても、1社のみへの依頼は避け、条件を書面で確認することが判断の前提になる。
次のステップとして、自分の物件に合う買取業者の条件を比較したい場合は、空き家の状況診断から始めると整理しやすい。
出典
- 法務省「相続登記の義務化」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
- 法務省「相続土地国庫帰属制度」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html
- e-Gov 民法(第251条・第258条)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
- 国土交通省 建設業者・宅建業者等企業情報検索システム https://etsuran2.mlit.go.jp/TAKKEN/
- 一般社団法人 遺品整理士認定協会 https://ihinseiri.or.jp/