先に結論を。 「実家が袋地(ふくろち)で、他人の土地を通らないと道路に出られない」——そんな土地を相続しても、心配しすぎないでください。袋地の所有者には、囲んでいる土地(囲繞地・いにょうち)を通って公道に出る権利が、民法で保障されています(囲繞地通行権、民法210条)。これは相手が拒否できない強い権利です。ただし、通行料(償金)を払うかどうかは、袋地になった経緯で変わります。この記事は、囲繞地通行権の中身と、通行料の要否、よくあるトラブルの解決の糸口を、条文に基づいて整理します。
通行権は「拒否できない」権利
まず知っておいてほしいのは、この通行権が法律で保障された強い権利だということです。民法210条は、袋地の所有者が公道に出るために囲繞地を通行できると定めています。囲繞地の所有者が「うちの土地を通るな」と言っても、原則として拒否できません。
しかも、この権利は土地に紐づいています。だから、袋地を相続や売買で取得した人にも自動的に引き継がれますし、袋地を借りている人(借主)にも認められます。「所有者が変わったから通行権は消えた」という思い込みでトラブルになることが多いのですが、権利は土地についてまわります。
ただし、通行できる場所や方法は、「囲繞地の損害がもっとも少ない範囲」に限られます。好きな場所を好きなだけ通れるわけではなく、必要な範囲での通行、というのが原則です(自動車で通れるかどうかは、必要性や周辺状況を総合的に見て判断され、認められないこともあります)。
通行料(償金)は、袋地になった経緯で変わる
ここが、いちばん誤解が多く、正確な理解が必要なところです。通行料を払うかどうかは、その土地がどうやって袋地になったかで、扱いが分かれます。
原則は「有償」。 通常の囲繞地通行権では、通行する人は、囲繞地の所有者に対して償金(通行料)を支払う義務があります(民法212条)。金額は法律で決まっておらず、当事者の話し合いで決めます。周辺の駐車場料金などを参考にすることが多く、1年ごとに支払う形も認められています。
例外は「無償」。 ただし、もともと一つだった土地が分割された(または一部が譲渡された)結果、袋地が生じた場合は、通行料は不要(無償)です(民法213条)。この場合、袋地の人は「分割の相手方の土地(残余地)」だけを、無償で通行できます。たとえば、親の土地を兄弟で分けた結果あなたの区画が袋地になったなら、もう一方の区画を無償で通れる、ということです。
つまり、「昔からの袋地なら原則有償、土地を分けた結果できた袋地なら無償」。自分のケースがどちらかを見極めることが、通行料でもめないための第一歩です。
よくあるトラブルと、解決の糸口
囲繞地通行権は、他人の土地を通る権利なので、どうしても摩擦が起きやすい。よくあるのはこんなケースです。
「通るな」と拒否される。 前述のとおり、通行権は拒否できない権利です。話し合いで解決しない場合は、通行権の確認を求めて裁判所に訴えることもできます。通行料でもめる。 金額に折り合いがつかないときも、最終的には裁判所が相当な額を判断します。建て替えの工事車両を通させてもらえない。 過去の裁判例では、こうした場合に通行を認めた例もあります。
大切なのは、あなたには法律で保障された権利があるという前提に立つこと。「相手が嫌がっているから諦める」必要はありません。ただし、隣地との関係は長く続くものなので、いきなり強硬に出るより、まず条文を根拠に冷静に話し合い、それでもこじれたら専門家(弁護士)を間に入れる、という順番が現実的です。
袋地でも、売ることも活用することもできる
「囲繞地通行権があるとはいえ、袋地は売れないのでは」と不安になるかもしれませんが、通行権が確保されていれば、袋地でも売却や活用は可能です。ただし、袋地は接道義務の関係で再建築不可になっていることも多いので、その場合は再建築可能にする方法とあわせて検討することになります。買取業者は「面倒な袋地は安く買い取ります」と言ってきますが、まずは自分の通行権がどうなっているか(有償か無償か、確保されているか)を整理してから、売るか持つかを判断してください。
よくある質問
袋地を相続しました。囲繞地の所有者に通行を拒否されたらどうなりますか?
拒否できません。袋地の所有者には民法210条により囲繞地を通行する権利が保障されており、囲繞地の所有者は原則これを拒めません。権利は土地に紐づくので、相続で取得したあなたにも自動的に引き継がれます。話し合いで解決しない場合は、通行権の確認を裁判所に求めることもできます。
囲繞地を通るのに、通行料は払わないといけませんか?
袋地になった経緯によります。通常の囲繞地通行権では償金(通行料)を支払う義務があります(民法212条、金額は話し合いで決定)。ただし、もともと一つの土地が分割・一部譲渡された結果できた袋地なら、分割の相手方の土地を無償で通行できます(民法213条)。自分のケースがどちらかの確認が重要です。
袋地の通行権は、車でも通れますか?
必ずしも認められません。自動車による通行が認められるかは、その必要性、周辺の土地の状況、囲繞地の所有者が受ける不利益などを総合的に考慮して判断されます(最高裁判例)。徒歩の通行は認められても、自動車の通行は認められないケースもあります。
囲繞地通行権があれば、袋地でも売れますか?
売れます。通行権が確保されていれば、袋地でも売却や活用は可能です。ただし袋地は接道義務の関係で再建築不可になっていることも多く、その場合は再建築可能にする方法とあわせて検討します。買取業者に安く売る前に、まず自分の通行権の状況(有償か無償か、確保されているか)を整理してから判断してください。
この記事は特定の買取業者・不動産会社への誘導を目的としていません。囲繞地通行権は、袋地になった経緯や個別の事情、判例によって扱いが変わります。ご自身の土地に即した判断には、弁護士・土地家屋調査士など、いずれの会社にも属さない立場の専門家にご相談ください。
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